中国の浙江省が取り組む海洋プラごみ回収処分モデルが国連機関UNEPから「2023年地球大賞」の最高栄誉賞を受賞

 中国の浙江省(せっこうしょう)が取り組んでいる「ブルーサイクル(藍色循環)」と名付けられた海洋プラごみの回収・再利用のモデルが、国連機関UNEPから「2023年地球大賞」の最高栄誉賞として表彰されました。

 「ブルーサイクル」がどういうプロジェクトなのかというと、2020年に始まった海洋プラスチック汚染の対策活動のことで、漁船が操業中に海から回収したり、船内生活で出たプラスチックごみを、港に帰ってきたときに「小藍之家(しょうあいのいえ)」と呼ばれる廃プラ収集・保管の拠点に持ち込むと、重量を計って一般の廃棄プラ業者よりも高い値段で買い取ってくれるというしくみです。

廃プラを買い取る企業たちが行政と共同で設立した「基金」を財源にして、QRコードを生成するスマホアプリや、ブロックチェーン技術を組み合わせることで、環境保護と参加する漁師たちへの支払いを両立するスキームです。

このスキームが高く評価されたポイントは、漁師による海ごみ収集から再利用までの循環プロセス全体をデジタル技術で把握できるようにしたことと、237社の企業と1万隻を超える船舶、延べ6万人以上の漁業関係者が参加して、廃プラ2254トンを含む1万900トンの海ごみを回収したという実績です。また、活動の結果として約2930トンの炭素排出も削減したと発表されています。

中国の統計は誇張されることもあるので、これらの数値が正確かどうかはわかりませんが、一定以上の規模で稼働していることは国連UNEPが確認していることでしょう。

 当社団がめざす「海洋プラごみ処分チェーン」は回収されたプラごみの買い取りまでを目指してはいませんが、プルーサイクルのスキームはコンセプトに似ているところもあって参考になると思っています。では、なぜ中国では「ブルーサイクル」のような廃プラの買い取りスキームが可能なのかというと、中国は安さを売りにした大量生産の国だという背景があります。製品を、より安く製造するために積極的に廃プラを利用してきました。廃プラを再生して大量に使用する流通市場が確立しているのが中国の強みであり、廃プラには、プロジェクト開始以前から金銭的価値と市場があったから、「ブルーサイクル」はそれに乗っかった形で成立したものです。

ただし、中国はプラスチックを再利用するために大気や川の深刻な汚染を起こしてきたし、輸入した廃プラも使わないものは集積所に放置したままにされてきました。環境汚染が深刻になりすぎたので2017年から輸入を禁止しました。

環境に負荷をかけない再生技術が未発達なまま市場が拡大すると、製品は安く製造できるかもしれないけれど環境負荷の面では大きなマイナスとなります。

 一方、現状の日本では、なぜ「ブルーサイクル」のようなしくみができないのかというと、大量消費した廃プラを自国で処分しきれず輸出に依存してきたからです。

日本の一人当たりのプラスチック消費量はアメリカに次いで世界第二位ですが、国内に再生プラの市場が十分に育っていないので、日本で廃プラは有価物ではなく、処分にお金がかかるコスト負担です。もちろん、陸上の廃プラより塩分が多いために扱いにくい海のプラごみを買い取る事業も日本では成立できていません。

たとえば、再生率が85%ぐらいあると発表されているペットボトルも、製品の材料として再利用されるのは、そのうちの大体20%ぐらいで、残りの65%は燃料として燃やされています。日本の統計では燃やすことも「リサイクル」の一種とされていますが、再利用率は高いけれど、再生率は高くないのが実情と言えます。

燃焼する処分方法をリサイクル率に含めるかどうかについてはさまざまな意見がありますが、それでも分解せずにマイクロプラスチックの原因になるよりはマシでしょう。

そして日本では、燃焼であれ、再生であれ、廃プラを産廃事業者に渡すときに買い取ってもらえることはほとんどなく、お金を払って引き取ってもらう「費用」になっています。

日本政府のテコ入れもあって回収インフラが比較的しっかりできているペットボトルでもこんな感じなので、他のプラスチックも再利用はそんなにうまくいっていません。燃焼補助剤として使われたり、最終処分場で埋め立てられたり、HS3915という輸出品目番号をつけて輸出されています。

特に、2017年に中国政府が輸入を禁止する前までの10年間は毎年140万トン以上の廃プラを輸出していました。再生に手間がかかるため、原油から精製したバージン材よりリサイクル材の方が高価というコストバランスの悪さも再生材の普及を妨げています。

中国に代わる受け入れ国がないために輸出自体は減りましたが、プラごみの発生量はさほど減っていないので行き場を失ったプラごみはダブつき、かなりの量が産廃業者の敷地に積み上げられていました。

さらに2021年1月からは改正バーゼル条約附属書が発効されて輸出量は年間56万トンまで減少しましたが、見方を変えれば、世界が循環型社会に変わっていこうとしている現代においては、行き場を失った廃プラの処分方法を探そうとする危機感が、廃プラの再生技術の開発を促したり、プラスチックの消費量を劇的に減らしていくキッカケになるかもしれません。

 一方、日本の廃プラの「質」はというと、日本の廃プラを再生材料として利用してきた中国の業者から「日本の廃プラは洗ってあって再生しやすい」と高く評価されていました。

これは、ごみを分別する生活習慣が日本にはしっかり根付いている効果です。他国より浸透している分別の習慣が、もっとダイレクトにリサイクル率につながって、一日でも早く資源循環型の社会になったらいいと思っていますが、そのためにすぐに取り組める改善点は何かと言えば、日本人の再生品に対する評価というか、新品が好きすぎて再生品を敬遠してしまうことが改善点のひとつだと私は見ています。

日本は街中が隅々まで綺麗だと外国人観光客から好評価を得ていますが、その反面、そんな日本人の潔癖症が再生プラの普及においては受け容れを阻んでいるのではないかと読んでいます。

わたしたちは一人ひとりが消費者でもありますから、再生プラを積極的に使うメーカーの商品を購入することで応援していけば日本の再生材料市場が大きくなり、今はまだ高価な再生プラスチックの価格が下がってメーカーは更に使いやすくなっていくでしょう。

何でも「新品がいい」と思う気持ちを少し緩めて、かつて古着がファッションのひとつとして定着していったときのように、再生プラスチックを「よいもの」とし、再生品を使うライフスタイルを「恥ずかしくないもの」として社会に受け入れられていければいいなと思っています。

また、買ったらすぐに捨ててしまうパッケージに必要以上のプラスチックを使っている商品を避けるとか、複合素材はリサイクルしにくいので再生しやすい単一素材の商品を積極的に選ぶとか、買った物はできるだけ長く使うとか、ちょっとした変化が積み重なっていくことで社会全体のリサイクル率は上がっていきます。

わたしたちは、一人ひとりがプラスチック製品の買い方、使い方、捨て方を変えていくことで海洋プラごみ問題にアプローチできるということです。

また、上記の通り日本では簡単ではありませんが、当社団では引き続き「海洋プラごみ処分チェーン」の実現をめざして行きます。皆さまのご支援・ご協力をお願い致します。

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