プラごみとカーボンニュートラルと林業

マイクロプラスチックにならないように海に漂流するプラごみを処分するためには現在のところ、熱による分解が最も現実的な手段ですが、熱分解(燃焼)するということは二酸化炭素(CO2)が発生してしまいます。熱分解によって発生するCO2の量を設備の製造技術によって可能な限り抑制していくことはもちろん必要ですが、実用化済みの普及技術ではまだ完全にゼロにすることはできていないのが現代における人類の技術水準です。

そこで脱炭素時代における熱分解は、微量でも発生してしまうCO2の分を何らかの形で吸収・吸着してプラスマイナスゼロという「カーボンニュートラル」という状態をめざしていくことになります。その手段として、育つ過程でCO2を吸収する樹木が着目されています。具体的には、既にある森林を手入れすることでCO2の吸収量を増やしす「間伐」と、これから育つ木を植える「植林」があります。

また、樹木は生長に伴いCO2を吸収しますが、森林全体で見れば、枯れ葉、枯れ枝、枯死木といった土壌有機物として炭素を蓄積し固定しておくことができ、土壌には生殖中の樹木が抱える炭素量の4倍ほどになるとも言われています。また、土壌有機物は少しずつ分解されゆっくり炭素を放出していきますので、伐採等によって森林における炭素の蓄積量が一時的に減ったりすることがあっても数十から数百年という長いスパンで見れば森林に蓄えられる炭素量は着実に増え続けていくと言われています。森林が存在し続けることは景観だけではなくCO2の吸収という面でも大切なことです。

地球環境研究センターの記事

プラスチックを熱分解する際に発生するCO2を吸収する方法として「間伐」を選ぶなら、たとえば1トン吸収するにはどれぐらいの広さや本数の間伐や植林をすればいいのかというと、実は今のところ複数の意見があってまだ共通基準にはなっていません。たとえば、林野庁がホームページに掲載している基準では、36年生~40年生の杉林なら1ヘクタール(約3025坪、1,000本の立木)でざっくり年間8.8トンほどのCO2吸収力があると推定されています。

林野庁「森林はどのぐらいの量の二酸化炭素を吸収しているの?」記事

なお、具体的な森林に対して正確な吸収量を計算するなら、そこの植生している樹木の種類や幹の太さ、本数などを調べ、林野庁のホームページにある下記の計算式に入れることで算出することができます。

森林1ha当たりの年間CO2吸収量(t-CO2/年・ha) = 森林1ha当たりの年間幹成長量(m3/年・ha) × 拡大係数 × (1+地下部比率) × 容積密度(t/m3) × 炭素含有率 × CO2換算係数

また、上記計算式による計算は、以下のサイトで公開されている計算シートに対象森林に係る樹種や森林面積等の必要な情報を入力することにより行うことが可能です。

二酸化炭素吸着・固定量の計算シートの作り方

「間伐」は、森林に光が射し込むよう曲がった木や傾いた木などを間引いて光合成を促進し、たくさんのCO2を吸収できるようになった成木の能力を最大に発揮できるようにすることなので、小さな苗を植える「植林」に比べて即効性があります。しかし、CO2吸着量にカウントされていなかった天然生林を人の手が入った育成林に変えることで他国と比較するための実績にはなるものの、それは人間が数値管理するための計算ルールであって本当の実態ではありません。CO2吸収の効率が悪いと言っても天然生林はもともと炭素を吸収して固定しています。間伐による効果の本当の実態を把握するためには、間伐によって光合成が促進されて増える正味の吸収量変化をもっと緻密に調査する必要があるだろうとは思います。残念ながら、この点について「間伐」による方法は実態把握に曖昧なところがあると言わざるを得ませんが、その基準づくりは専門家による今後の研究成果を待ちたいと思います。

一方の「植林」は、新たに樹木を植えることなのでゼロだったCO2吸収量が正味として増えることですから、実行に伴う増加はわかりやすくスッキリしますが、反面として活発に吸収できる樹齢は30年生~40年生と言われており、20年生以下の若い木には吸収力をさほどありません。まして植えたばかりの苗にはまったく期待できず、植林した効果が本当に表れるには成木に育つまで待つ必要があり、即効性はありません。

そこで、対策としては即効性のある間伐と、将来に向けた植林を組み合わせて取り組むのがよさそうです。

ところで焼却炉などの熱分解設備はトンなどの重量表記ではなく 立方メートル(m3) などの体積で性能が記載されていることが多いので、1トンのCO2は何立方メートル(m3)の体積になるのかといえば約509m3となります(J-クレジット制度のコラム記事による)。前述の通り1ヘクタールは8.8トンの吸収量ですから体積に換算すると4,479m3ということになります。また、1トンのCO2は40年生の育成林の杉の木、約113本の年間吸収量に相当すると言われています。

逆に1ヘクタールの場所に植林するなら何本ぐらい苗を植えるのかといえば、だいた2,000本ぐらいと言われています。育っていく間に枯れたり倒れたり間伐されたりすることで徐々に減っていき、40年生の成木になるころには5~6%前後が残るということでしょう。

では熱分解で発生するCO2をカーボンニュートラルを実現するなら間伐や植林をどれぐらいやったらいいのでしょうか。仮に、使用する熱分解設備の効率がよく、1時間稼働する際に発生するCO2量が「1m3」とすると、1年間連続運転すれば8,760m3のCO2発生量となりますから、36年生~40年生相当の杉天然生林を毎年約2ヘクタールずつ間伐して育成林化することでカーボンニュートラルが達成できている計算になります。ただしこれは、上記の通り人間の都合による集計のための計算ですから、併せて1~2ヘクタール程度の植林も実施していくことが望ましいでしょう。

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