海のプラごみ問題とは?
1) 海のプラごみによる『見えない汚染』が私たちの健康も脅かしている
プラスチックの分子構造はとても安定していて、紫外線や波によって小さなマイクロプラスチックになっても分解されているわけではありません。消化器官にプラスチックを詰まらせた生物が死んでいる写真はよく知られていますが、もっと恐ろしいのは極小のマイクロプラスチック(ナノプラスチック)が体内に運んでくる『見えない汚染』です。見えない汚染の正体は、乳がんや生殖機能異常などの原因になると言われている『POPs(残留性有機汚染物質)』で、製造時からプラスチックに含まれているものもあれば、水中で有毒物質を吸着するプラスチックの性質のために海水の10万~100万倍に濃縮されることもあります。
ナノサイズのプラスチックは細胞膜をすり抜けてしまうほど小さいので体内への侵入を防ぐことが難しく、ナノプラスチックが運んでくる有毒物質が体に蓄積されてしまう危険性があります。このことは国連環境計画(UNEP)なども警鐘を鳴らしています。
POPsはヒトのホルモンと構造の一部が似ていて『環境ホルモン』とも呼ばれます。ホルモンと結合するはずの受容体(レセプター)器官をふさいでしまうため、身体の健康を保つ働きが弱まって生殖機能や甲状腺機能などに重大な影響を及ぼす危険性があります。
<POPsによる健康被害の例>
●女性:乳がん・子宮内膜症の増加
●男性:生殖機能低下
●胎児:発育異常・知能への影響
※健康被害について詳しくはこちら(環境省資料)
では、どれぐらいの割合で人体にプラスチック粒子が侵入しているのかというと、アムステルダム自由大学(オランダ)の研究者らが2022年3月に発表したレポートでは、健康なボランティア22人から採取した血液のうち、77%の人からマイクロプラスチックが検出されました(ScienceDirect記事)。
また、カンパニア大学ルイジ・ヴァンヴィテッリ校(イタリア)のラファエレ・マルフェッラ氏などのチームが発表した論文で「脳に血液を運ぶ動脈にたまったプラーク(脂肪の多いコレステロール)の除去手術を受けた257人」を対象に術後34か月モニタリングしたところ、半数以上の人からプラスチック粒子が検出され、検出された人は検出されなかった人に比べて心臓発作や脳卒中を起こしたり、何らかの原因で死亡したりする危険性が5倍高いことが明らかになりました(BusinessInsider記事)。
そして日本でも、東京農工大の高田秀重教授たちの研究グループが日本国内に住む複数被験者の血液や臓器からナノプラスチックを検出しました(産経新聞記事)。
2)日本近海のマイクロプラスチック濃度は全海洋平均の27倍!
環境省からの委託で九州大学の磯辺篤彦教授たちの研究チームが2014年~2016年の間に実施したマイクロプラスチックの実態調査によると、プラごみ流出量が多い国の周辺から黒潮が流れてくる日本の周辺海域はマイクロプラスチック量が多く、世界中の海の平均値に比べて27倍も含まれていました。
3)2030年に3倍、2060年には4倍!放置は現状維持ではない
プラスチックの使用量が年々増えるに従って不法投棄も増え、陸から海に流れ出る海洋プラごみ量は急増しており、今や世界で年間800万トンも流出しています(環境白書およびWWFジャパンのサイトより)。さらに年間1,000万トン~1,200万トン流出しているという推計もあります(IDEAS FOR GOODサイト)。
現状のままだと日本周辺や北太平洋中心部の海域では2030年までに海洋上層での重量濃度が2016年比で約2倍になり、2060年までには約4倍となると予測(九州大学・礒辺研究室サイト)されている状況ですから、何もしないことは現状維持ではなく悪化していくことです。
4)海洋プラごみの半分以上が家庭ごみ、誰もが他人事ではない
たとえば、屋外のごみ箱からこぼれ落ちたペットボトルは風や雨に流されて川に流れてしまうことなどがフィールド調査で指摘されています。消費者のひとり一人が、海洋プラごみの原因になるような生活習慣がないか自己確認して、改善すべきところを改善していくことで、川や用水路を通じて海に流れてしまうプラごみも減らしていくことができます。
海洋プラごみのうち51%が家庭ごみ、34%が漁業ごみ、15%が農業や工業からのごみです(環境省資料および愛知県海岸漂流物環境学習サイトより)。海ごみの半分以上が街由来の生活ごみで誰もが他人事ではないので、プラごみの発生を抑制する生活習慣が浸透しなければ流出の元栓は閉まりません。
また、きちんと分別して捨てているつもりでもマイクロプラスチックが流出する経路はたくさんあります。プラごみは処分工程で破砕されマイクロプラスチックが発生しますが、破砕後に洗浄すると水を排水する際にフィルタを透過していしまい、その量は侮れません。カナダの海洋フロンティアインスティテュート(OFI)のマイクロプラスチック研究者で、ピレネーの泥炭地の調査を担当したスティーヴ・アレン氏ら科学者チームが2023年5月に発表した報告によると、米国の調査例では1つのリサイクル施設から年間300万ポンド(1360トン)のマイクロプラがフィルタで除去できずに流出していたとのことです。
ぜひ、あなたのご意見やアイデアをお聞かせください!
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当社団でも情報拡散にご協力させていただきます。
5)世界中で加速する脱プラスチックの取り組み
日本をはじめ、世界175ヵ国以上が参加する『国際プラスチック条約』が、2024年3月にはアジアなどの各エリア会議で議論され、2024年4月の国際会議を経て2024年12月には合意形成する予定です。以下、各国の取り組を日本財団のサイト(日本財団ジャーナル)から引用して掲載します。
●アメリカ
1人当たりのプラスチック容器包装の廃棄量が、世界で最も多いアメリカ。プラスチックへの規制は州や自治体ごとで異なるが、2021年11月に米国環境保護庁が「国家リサイクル戦略」を発表し、国全体としてリサイクル可能な商品の増加や、リサイクル過程での環境負荷の軽減を行い、2030年に向けたリサイクル率50パーセントを目標に定めた。
使い捨てプラスチックストローの廃止や、プラスチックごみをクリーンエネルギーに変える技術開発など、大学やグローバル企業、スタートアップの間での、プラスチック問題解決への動きも活発だ。
●EU(欧州連合)
プラスチックごみをはじめとした環境問題に対し、世界的にも高い意識を持って取り組んでいるEU。2019年5月に使い捨てプラスチック製品の流通を2021年までに禁止する法案が可決された。2021年7月から代替可能な皿、カトラリー、ストロー、コップ、発砲スチロール製食品容器などが規制対象となった。と同時にプラスチックボトル回収率を2029年までに90パーセント、リサイクル材料含有率を2025年までに25パーセント、2030年までに30パーセントといった明確な目標も掲げている。
また、それぞれの加盟国でも脱プラスチックの動きは活発だ。先駆的な取り組みをしているフランスでは、2040年までに全ての使い捨てプラスチック包装を無くす目標が設けられ、2022年1月から全ての小売業において野菜と果物のプラスチック包装が禁止となった。
また。イタリアでは2018年1月にマイクロプラスチックを含む製品の生産禁止を発表、オランダのスーパーでは2018年にプラスチック包装を全く使わない売り場が世界で初めて誕生し話題を集めた。
●中国
世界最大のプラスチック消費国である中国でも、プラスチックごみ管理の強化が進められている。2021年9月に発表された「プラスチック汚染改善行動計画」では、2025年までにプラスチックごみを削減するための目標や、生産、流通、消費など各プロセスにおけるプラスチック製品の管理を強化する取り組みが記されている。
小売り、オンライン取引、飲食、ホテルなどでの使い捨てプラスチック製品の使用を減らすように求めているほか、プラスチック代替品の普及や、ごみ回収のルール化、リサイクルの強化についても記されている。
●イギリス
王室でもプラスチック製品の使用を禁止しているイギリス。2020年10月からプラスチック製のストローやマドラーなどの供給が禁止された。また、2022年4月からは国内で製造または輸入されたプラスチック製包装材において、サイクル材使用率が30パーセント未満の場合に課税される「プラスチック製包装税」制度が導入された。
●インド
インドでは、2016年3月にプラスチック廃棄物管理規則を制定して以降、製造・流通・使用・処理において規制や罰則を設けるなど環境汚染対策に取り組んできた。2022年7月からは、使い捨てプラスチック製品を禁止するという厳格な規則が設けられた。対象となるのは、プラスチック製の袋、カップ、ストロー、皿、ペットボトルなど。
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